最近、大企業を中心に、AI関連のハンズオンセミナーを社内研修として必須にする会社が増えてきました。
私自身も講師としてこうしたセミナーに登壇する機会が多くあります。
今回は、現場で受講者の方々と接する中で感じていることを書いてみます。
ノンプログラマーでも「作れる」時代になった
ノーコード・ローコードツールの登場で、プログラミング経験がない人でも、ある程度の業務改善ツールを自分で作れるようになりました。
カスタム「AIエージェント」もその1つです。
内製化の大きなメリットは、1回あたりの試作コストが低いことです。
外注であれば見積もりや要件定義が必要になり、気軽に「試しに作ってみる」ことはできません。
社内で作れれば、失敗を前提に数を打てます。この試行回数の多さこそが、AI活用を前に進める原動力になります。
とはいえ、ツール習得は簡単ではない
一方で、1つのツールを中級者レベル以上に使いこなすには、それなりの時間がかかります。
セミナーで基本操作を覚えても、実際の業務に合わせたものを作ろうとすると、すぐに壁にぶつかります。
セミナーの限られた時間内では、どうしてもこなせる例題数が圧倒的に足りないのです。
しかも受講者の多くは、本業を抱えながら学んでいますので、就業中に費やせる時間も限られます。
日々の業務をこなしつつ新しいツールを習得し続けるのは、想像以上に大変です。
メーカーは、「習得は難しくない!」というけど・・・
世の中に多くある「ノーコード・ローコードツール」は、プログラミングの知識が無くても使える代物です!と謳われています。
しかし、実際に講師の立場から言えば、「ほぼ嘘」だなと感じます。
大体が、「変数(型含む)」、「条件分岐」、「ループ(繰り返し)」といったプログラミングの基礎は分かっていることを前提とした造りになっています。(だって、ツールの裏側で動いているのは、何らかのプログラミング言語なのですから!)
でも、世の中に数多くあるセミナーでこの部分を事細かに説明しているものは、ほとんどありません。
そのため、人生の中でプログラミングに多少でも触れたことのある人・勘の良い人は、すんなりと進むことが多いですが、そうでない人(私も最初、同じ穴に落ちて挫折しかけました!)は、ツールの操作方法以前の段階で行き詰ることが多いのです。
そんな状態なので、本業の傍ら習得するというのは、経験と環境によって習得スピードに大きな差が出やすいのです。
全員に同じゴールを求めるのは無理がある
ここで考えたいのは、全社員に同じレベルのツール習得を求めることが、本当に正解なのかということです。
業務の内容や役割によって、AIとの関わり方は違って当然です。
実際に手を動かしてツールを作る人もいれば、ツールは作らないけれど「この業務ならAIに任せられそうだ」と判断する人も必要です。
多くの社員にとって本当に必要なのは、ツールを使いこなす力よりも、AIに何を、どこまで任せられるかを見極める力ではないでしょうか。
見極める力も、触ってみないと身につかない
ただし、「だからハンズオンは不要だ」という話ではありません。
AIに何ができて何ができないのかは、資料を読むだけではなかなか実感できません。
一度自分で触ってみて、意外とうまくいく場面と、思ったほど使えない場面の両方を体験して、はじめて「この業務なら任せられる」という感覚が生まれます。
つまり、多くの社員向けのハンズオンは、ゴールを「習得」から「体験して、可能性と限界を知る」に切り替えればいいのです。
改善のヒントは現場にある
AI導入がうまくはまるポイントは、業務ごとに存在します。
さらに、AIを前提に業務の流れそのものを組み直すことで、生産性が大きく伸びるケースもあります。
たとえば、問い合わせメールを人が読んで分類し、担当者に振り分け、回答を作成している業務があったとします。
部分的にAIを使うだけなら、回答文の下書きを任せる程度にとどまります。
しかしAI前提で考え直せば、分類・振り分け・下書きまでをAIが担い、人は最終確認だけを行うという形も見えてきます。
こうした気づきは、管理職が会議室で考えるよりも、日々その業務を回している現場の方が得やすいものです。
だからこそ、現場の人たちが見極める目を持つことに大きな価値があります。
セミナーを開く前に、目的を分けよう
以上を踏まえると、社内でハンズオンセミナーを開催する際は、最初に目的をはっきり分けることをおすすめします。
1つ目は、事務職など一部のメンバーに、特定のツールを実務で使えるレベルまで習得してもらうことです。
この場合は対象者を絞り、受講後の継続的なフォローも含めて設計する必要があります。
2つ目は、より多くの社員に、社内でAIによって大きく改善できるポイントを見つけてもらうことです。
この場合は、操作の習熟よりも、体験と気づきを重視した内容にすべきです。
もちろん、後者の受講者の中からツールに興味を持ち、自主的に学び始める人が出てくれば理想的です。
そうした人が、やがて社内のAI活用を引っ張っていく存在になるかもしれません。
「全員に同じ研修を」ではなく、「誰に、何を持ち帰ってほしいか」から逆算する。
それが、AI時代のハンズオンセミナーの価値を最大化する方法だと考えています。
どちらにしても、短期間での完成を目指すのではなく、知見のある人を中心・伴走者として数カ月から数年という長いスパンで行っていくのが成功の秘訣だと思います。
やはり、何事も出口設計が大事なのです。




