※本稿は一般論としての整理であり、特定の自治体の内部情報に基づくものではありません。
外部知見の“移植”という現実的な選択肢
「なぜ、これほど多くの自治体で財政悪化が問題になるのか?」
人口減少や高齢化は確かに大きな要因です。ただ、それだけでは説明しきれない“共通の構造”があります。
自治体ごとの努力不足や、誰か個人の失策というより、そうなりやすい仕組みが長年積み上がってきた結果、同じような苦境が各地で繰り返されている――私はそう見ています。
この記事は、特定の自治体の内情や責任論に踏み込まず、全国の自治体で起きやすい構造を整理し、解決策の一案として ・・「外部知見の移植」・・(期間限定で専門人材を戦略ポジションに入れ、ノウハウを庁内に残す)を提示します。
1. どうして自治体財政は悪化しやすいのか
多くの自治体では、支出は増えやすい一方で、歳入は増やしにくい。いわば“非対称”が起きています。
・ インフラ更新(道路・上下水道・公共施設)の更新費用が一気に来る
・ 福祉・子育て・防災・除排雪など、削りにくい支出が増える
・ 人口減や産業構造の変化で税収が伸びにくい
・ 行政は「失敗が許されにくい」ため、投資判断が保守的になりやすい
・ 人事ローテーションで専門性が蓄積しにくく、ノウハウが属人化しやすい
結果として、「年度内の帳尻合わせ」はできても、収益構造そのものを変えるのが難しい状態に陥りがちです。
2. “内部の努力だけ”で突破しにくい理由
ここは誤解されやすい点ですが、私は職員の努力不足だとは考えていません。むしろ行政の仕事は高度です。
ただ、財政を根本から立て直す局面では、通常業務とは別の能力が必要になります。
・ 既存制度を“正しく運用する”だけでなく
・ 制度の設計思想を理解し、
・ 外部資金・制度枠・プロジェクト設計を総合的に組み替える
こうした能力は、自治体内部だけで自然に育つ設計になっていないことが多い。
さらに、議会・住民・監査など多方面の合意形成が必要で、試行錯誤がしづらい。ここに限界が生まれます。
3. 解決策の一つ:「外部知見の移植」という現実的手段
そこで、解決策の一案として提案したいのが ・・外部知見の移植・・ です。
ポイントは「単発のアドバイス」ではなく、一定期間、実務と意思決定を伴走できる形で入ってもらうことです。
3-1. どういう人材が向くのか
自治体の課題に直結する分野で、国の制度・予算・関係省庁との連携に強い人材が望ましい。
ここでは一案として、国の制度設計や予算執行に関わった実務経験者(官僚OB等)を挙げます。
この種の人材が強いのは、単に「申請書が書ける」ではなく、
・ 制度がどう作られ、どう運用されるか
・ どの政策枠に乗せれば通りやすいか
・ 省庁・道府県・周辺自治体連携をどう設計すれば実行可能か
といった、・・制度側の論理・・ と ・・関係者間の調整設計・・ に精通している点です。
なお、「官僚OB」と聞くと、いわゆる天下りのイメージ(役割と成果の関係が見えにくい)を連想する方もいると思います。
ここで言う官僚OBは、その延長ではありません。
必要なのは肩書きではなく、制度設計側の知見と調整力であり、報酬以上のリターンが見込めるからこそ“指名買い”として起用する、という位置づけです。
これは個人の善悪というより、官僚退職後の活躍の場を成果と結びつけて設計できていない、社会側の構造の問題でもあると感じています。
そもそも官僚のスキルセットは、制度設計・予算・行政間調整といった領域に特化しており、民間でそのまま最大限に活きる場面は限られがちです(もちろん民間でも活きますが、適用領域は選ばれます)。
その点、地方自治体の構造改革は、まさに彼らの経験が最も自然にレバレッジされる領域だと言えます。
3-2. 役割設計:戦略ポジションに置く
外部人材を組織の末端に置くと、調整に埋もれて機能しません。
そこで期間限定でもよいので、トップ直轄の戦略ポジション(例:CSO=最高戦略責任者のような役割)に置き、次を担ってもらうのが現実的です。
・ 財政再建と成長戦略のロードマップ作成
・ 外部資金・制度枠の獲得戦略(補助金・交付金・特区等)
・ 省庁・道府県・周辺自治体との連携設計
・ 庁内のプロジェクト型推進体制(タスクフォース化)の設計
・ ノウハウの庁内移転(属人化させず“仕組み”として残す)
3-3. 費用対効果の考え方
外部人材の採用にはコストがかかります。ただ、ここを「コスト」ではなく ・・投資・・ として捉える自治体経営が必要になっています。
仮に(例として)年1,000万円規模の人件費が発生しても、制度設計・外部資金獲得・プロジェクト再編で、より大きな資金流入や支出効率化が起きるなら投資として成立します。
さらに重要なのは、単年度で終わらせず、庁内にノウハウが残る形にすること。ここまでできて初めて「構造改革」になります。
4. 失敗しやすい落とし穴:削る順番を間違える
財政再建でありがちな失敗は、削る順番を誤ることです。
生活基盤や将来投資(教育・子育て・基幹サービス)を先に削ると、住民流出・税収減が起き、さらに財政が悪化する悪循環が起きます。
無駄の見直しは必要です。しかし「未来の税収基盤」や「住民の安心」を壊す削減は、結果的に最も高くつくことがあります。
ここは冷静に再設計が必要です。
5. なぜ今なのか:「時間」が最大のコストになる
財政が厳しくなるほど、選べる手は減ります。
・ 累積赤字が増えるほど、改革余地が狭くなる
・ 国の関与が強まるほど、自治体の裁量が減る
・ 合意形成に時間がかかるほど、数字が先に悪化する
だからこそ「状況が確定するまで待つ」ではなく、先に構造転換の準備を始める必要があります。
6. なぜ“正論”だけでは動かないのか ― 議会構造という現実
ここまで書いてきて、私自身も一つの疑問を持ちます。
「それは理想論ではないか?」という点です。
どれほど合理的な財政再設計であっても、最終的には議会の承認を得なければ実行できません。
例えば、5つの町(A・B・C・D・E町)が合併して一つの市になっているケースを考えてみましょう。
市全体の財政健全化のために、施設やサービスの取捨選択が必要になったとします。
仮に人口規模や利用率の観点から、
「B町の図書館は廃止し、今後は隣のC町の図書館を活用する」
という案が合理的に導かれたとしても、B町選出の市議がそれに賛成するのは容易ではありません。
それは利己的だからではなく、選挙制度上、地元住民の期待に応える責任を負っているからです。
全体最適としては理解できても、地元の生活基盤に直結する案件に賛成することは、政治的に極めて難しい。
この構造こそが、財政改革を困難にする大きな要因です。
だからこそ必要なのが、・・しがらみを持たない第三者の存在・・ です。
第三者は「誰かの町の代表」ではなく、「市全体の持続性」という軸で設計を行うことができます。
そして重要なのは、議会との対立軸を作ることではなく、
・ 感情論を構造論へ置き換える
・ 対立を“役割の違い”として整理する
・ 合意形成の設計そのものを同時に行う
こうした調整機能を持つことです。
外部知見の移植とは、単なる制度理解ではなく、・・この政治構造を前提にした実行設計・・ でもあるのです。
7. まとめ:必要なのは“精神論”ではなく、再現可能な移植手順
自治体財政の悪化は、個人の責任論で片付く問題ではありません。
構造として起きやすい。だから構造として直す必要があります。
その際、行政内部の努力だけでは届きにくい領域があります。さらに現実には、議会構造や選挙インセンティブという「正論だけでは動かない壁」も存在します。
解の一つが、・・外部知見の移植(期間限定の戦略人材投入+ノウハウの庁内化)・・ です。
これを「単発の助言」で終わらせず、自治体の中に“稼ぐ力”と“設計できる力”を残す仕組みにまで落とせるかどうかが、成否を分けます。
(おまけ)AIとの協創について
最後に少しだけ、今回の「自治体財政の構造改革案」を組み立てた背景に触れておきます。
最近はAI活用が広がっていますが、多くの利用は次のレベル2までで止まっているように感じます。
レベル1:情報処理(検索・要約)
調べ物や文章整理に使う、一般的な使い方。
レベル2:壁打ち(対話による整理)
対話を通じて考えを整理し、論点の抜けに気づくための使い方。
私が今回の案を組み立てる際は、その先のレベル3――私はこれを ・・「AIとの協創」・・ と呼んでいます――という使い方をしています。
レベル3:協創(検証エンジンとして組み込む)
AIを“外付けの道具”というより、思考の拡張装置として使います。
AIが得意な ・・検索・検証・・(論点の洗い出し、反対意見や副作用の確認、代替案の比較など)はAIに任せ、
人間が得意な ・・前提や構造の変更・・(何を守り、何を変え、どの順番で実行するか)は人間が担う。
この役割分担により、検討漏れを減らし、リスクを下げたうえで、実行可能性をできるだけ高めることを狙っています。
とくに自治体のように、制度・財政・住民生活・議会・時間制約が複雑に絡むテーマでは、単なる要約や壁打ちを超えて、・・構造を設計するための協創・・ が重要になると考えています。




