NTTが提供している「WinActor」とは何?

RPAソフト関連で検索数が多いのが、この「WinActor」です。

そして、日本において最もシェアが大きいのも、この「WinActor」なのです。

「WinActor」の売りは?と聞かれれば、日本初、純国産RPAソフトということが、真っ先に挙げられます。

RPAソフトの歴史を言えば、アメリカにおいては1980年代には登場していますが、日本において純国産ソフト、つまり「WinActor」が開発されたのは2010年で、市場に投入されたのは2014年です。

それまでRPAといえば、海外製であり、表示のほとんどが英語になっていたこともあり、多くの人にとって取っつきにくさがあった訳です。

そこに満を持して登場し、自慢の販売網もあり、あっという間に国内シェアNo.1になりました。

 

「WinActor」の位置づけ

RPAソフトには、いくつかの区分けがあります。

 

RPAソフトの違い

図に沿って話せば、「WinActor」は、端末のPCに直接インストールする「インストール型」であり、「フローチャート型(GUI)」となります。

RPAソフトにも開発段階で、「どの層をターゲットにするのか?」といったことが考えられています。

その点から言えば、小規模~中規模の法人を対象にしていると言えるでしょう。

 

「WinActor」が人気のある理由

さて、どうしてそんなにこの「WinActor」が人気があるのか?という疑問ですが、やはり「表示が日本語である」ということに尽きると思います。

プログラムというと、多くのプログラム言語が英語を主体としており、ノンプログラマーの人達にとっては、とても難しいことをしているようで敷居の高さを感じざるを得ないものでした。

その部分を、出来る限り日本語に置き換えることにより、プログラムアレルギーを低減しているように感じます。

 

また、サポート体制の部分も大きいと思います。

有名なRPAソフトのほとんどが外国製である中、すべて日本語、サポートもNTT関連の会社が日本語で対応してくれるということで、導入後も心配が少ないというのは、法人として安心でしょう。(もちろん、別途費用が掛かります)

2019年の国内RPA市場において、「WinActor」はトップシェアということと、潰れる可能性が極めて低い会社であるということもあり、今後多くのサードパーティーが「WinActor」に準じた補助的なソフトウェア(AI-OCRやAIチャットボット等)を開発してくると思われます。

NTTのWinActor

 

 

「WinActor」の金額

どんなに便利なツールでも、費用対効果が見込めなければ、導入する意味がありません。

RPA自体は、他の業務効率化を謳うツールに比べて、事前にある程度その効果が測定できるツールですので、しっかりと算定しましょう。

さて、RPAソフトの大半は、「年間ライセンス制」で販売されており、この「WinActor」も同様です。

ただ、ちょっと料金体系を分かりづらくしている点があります。

それは、「フル機能版」と「実行版」に分けられているからです。

「フル機能版」というのは、名前の通り、「WinActor」におけるすべての機能が入ったライセンスです。

一方、「実行版」というのは、シナリオ(※1)が作れず、単純に実行するのみなのです。

※RPAで作った自動化のプログラムのことを、「WinActor」においては、「シナリオ」と呼んでいます。一言で「ロボット」としてしまうと、「RPAソフト本体」と「自動化のプログラム」が混同されるのを防ぐ意味があると思われます。

そのため、「フル機能版」を1ライセンス購入し、「実行版」を2ライセンス購入するといった組み合わせで安く仕上げることができます。(この場合、同時にロボットを実行できるのは、3台ということになります。)

■フル機能版(1ライセンスにつき) ⇒ 90万8000円 / 年 (税抜き)

■実行版(1ライセンスにつき) ⇒ 24万8000円 / 年  (税抜き)

 

さらに、RPAはシナリオが動いている最中に他の操作が入ると、エラーでストップしてしまう為、RPAの為に1台PCを用意する必要があります。

そんなにハイスペックである必要はありませんが、メモリ8GBは欲しいところです。

■RPAのためのパソコン ⇒ 10万円くらい / 買取 (税込み)

 

という訳で、本当の最小構成で導入すると、

フル機能版(1ユーザ) + パソコン(1台) = 110万8800円(税込み)

となります。

ただ、これは単純にRPAを使う環境が出来るというだけであり、実際には別途サポート契約などの費用が掛かるケースが多いです。

特に最初からRPAの本格的導入を考えている法人の場合、RPA導入前・導入後のスムーズな運用スキーム開発などを手伝うコンサルタントなども入るため、最低500万円~といった状況のようです。

その他、ExcelやWordのように本を見ながら簡単習得という訳にはいかないケースが多いので、従業員をハンズオンセミナーに行かせるとか、RPAエンジニアを呼んでシナリオ作成代行や講習を依頼するなどの費用が見込まれます。

 

●「WinActor」セミナー(※こちらの金額は参考価格で、主催者によって異なります。)
・初級編  30,000円程度/ 7時間程度 × 1日
・中級編  50,000円程度/ 7時間程度 × 2日
・上級編  50,000円程度/ 7時間程度 × 2日

 

●「WinActor」エンジニア派遣
1週間 ⇒ 50万円~80万円程度/1人

 

「WinDirector」とは?

多くの人が「WinActor」をRPAソフトと呼んでいますが、正確に言えば、「RPA(Robotic Process Automation)」ではなく「RDA(Robotic Desktop Automation)」です。

本来、「サーバー型」がRPAであり、「デスクトップ型」は、RDAになります。

では、WinActorは統合管理できないのか?というと、それをカバーすべく「WinDirector」と呼ばれるものを「WinActor」から数年遅れで、開発/提供しています。

 

<価格>
●WinDirector : 262万2,000円/年(サーバー型)

windirector

WinDirectorは、複数導入したWinActorを全社で一元的に管理・統制するための運用ツールです。

具体的には、WinDirectorを導入することで
①シナリオの一元管理
②シナリオの実行管理
③WinActorの稼働状況管理
が行えるようになります。

つまり、野良ロボットと呼ばれる作成者/役割が不明なロボットの作成や実行を取り締まれたり、社内にある複数のWinActor端末にバランスよく仕事を振ったりすることで運用効率をアップさせることも出来ます。

他社の「サーバ型」のRPAでは、1台のサーバでシナリオ作成・実行まで行うものがありますが、WinDirectorは管理・統制に特化されており、利用するためには「WinActor」ありきのシステムとなっています。

 

「WinActor」のメリット・デメリット

以下、複数のRPAソフトを使ったことのある者からの個人的感想としてお読み頂けると幸いです。

 

<「WinActor」のココが凄い!と思ったこと>

「WinActor」を一通り触ってみて、まず思ったことは、「日本人の初心者に、かなり配慮した造りになっているな」ということです。

RPAソフトは、「WinActor」に限らず、裏ではプログラミングが動いています。

それをアイコン化、文字化することにより、特定のプログラミング言語を覚えずに、プログラミング同様の動きを再現できるというのがRPAソフトの仕組みです。

ここは、RPAの長所であり、短所にもなりえる個所ではありますが。

他のRPAソフトでは、プログラミングに必須の「変数」といったものを、アルファベットで記入するというのが鉄則なのですが、「WinActor」においては、セミナーでも「日本語で変数を作るように!」とアドバイスされます。

そういった点でも徹底的に初心者に寄り添った造りになっていると言えるでしょう。

 

また、(ノンプログラマーにとって)直観的に動かせることに主眼をおいて作られているようです。

パーツを組み立てていく場所は、「フローチャート型(GUI型)」となっており、ゲーム感覚で左手にある窓からパーツを取り出して置いていくといった繰り返し作業で、自分が何をしているのか?が把握しやすいと思います。

winactorの画面

 

続いて、凄いと思ったのは、シナリオの配布を念頭においてロボット作成できるようになっていることです。

どういうことかというと、通常、WEB上ではなく、ローカルにあるファイルを対象に処理をする場合、絶対パスがそれぞれPCごとに異なります。

そのため、AというPCで作成したシナリオを、BというPCで動かそうとした場合、シナリオ内の絶対パスを修正する必要が出てきます。

しかし、WinActorの場合、相対パスを作成できるようになっており、シナリオファイルの保存先さえ気を付ければ、全くシナリオに手を入れずに他のPCでそのまま使えるのです。

ちょっと何を言っているのか分かりづらいと思いますが、中央でシナリオを作成して、それを配布するという仕組みにしている場合、結構革新的な機能なのです!

 

あと、パーツの多さでしょうか。

「プログラミングは、パズルである」と言われます。

1つのある目的があるとして、それに向けて色々な関数やメソッドといったものを組み合わせて動作させるのが、本来のプログラミングです。

しかし、この「WinActor」においては、事前にそういった動作をするパーツが数多く用意されているのです。

2019年11月の時点で、「WinActor」もヴァージョン6になって、パーツ数も400を超えており、今後も増えていくそうです。

 

最後にもう1つ付け加えたいのは、他のRPAソフトに比べて、問われるプログラミングスキルが低いことです。

通常のRPAソフトでは、変数を利用する際に「型」や「スコープ」といった知識が必要であったり、ホームページ上のデータ取得の際にはHTMLの知識が必要となるのが一般的ですが、「WinActor」に関しては、ほとんどその知識必要とせずに処理することが可能となっています。

そういった意味では、「WinActor」の作り手が、ノンプログラマーである一般のユーザーに向けて作ったRPAであることを感じずにはいられません。(もちろん、その弊害もありますが。)

 

 

<「WinActor」の気になったこと>

続いては、「WinActor」を実際に使ってみて、個人的にストレスを感じる個所を正直に書いてみたいと思います。

まず、「使い始めての時期(初心者」と「だいぶ使えるようになってきてからの時期(中級者)」でかなり印象が変わりました。

初心者の頃には、「1つ1つ選んでいけば良い造りになっていて、ユーザーフレンドリーだなぁ」と感心することも多かったのは事実です。

しかし、中級者になった頃には、正直「使いづらい造りだなぁ」と思うことがしばしば。

今までWinActorしか使ったことが無い人であれば、なんとも思わないのかもしれませんが、他のRPAソフトの経験があると、凄く感じますね。

 

■「パーツ数の多さ」

先程、メリットとして挙げたものの1つですが、初心者以外の人にとっては煩わしさの原因になります。

「WinActor」側としては良かれと思ってパーツを増やしていると思いますが、あまりに沢山似たものがありすぎて、覚えるのに時間が掛かります。

例えば、エクセルにおいて指定のセルにある値を読み取りたい場合、なぜかパーツが2つもあるのです。

「列だけ指定できるもの」と、「行と列の両方が指定できるもの」。

そういった形でパッと見、違いが良く分からないパーツが沢山あり、他のRPAソフト経験者でも混乱させられると思います。

そのくせ、「こんな基本的な作業も簡単にできないの?」という不足感もあり、発展中のソフトだと感じさせられます。

初心者向けに作ってある弊害とでも言うべきでしょうか。

パスに「\」1つ入れるだけでも、「連結」のパーツを選び、1つ1つ選んでいくという作業が発生します。

これは一例ですが、万事がこんな調子なので、他のRPAソフトに慣れている人だと、「時間が掛かって仕方がない!」とストレスになる人は多いと思います。

 

■「フローチャート」の見づらさ

RPAソフトには、「フローチャート型(GUI型)」以外に、「スクリプト型」というのがあります。(下の画面が、「スクリプト型」と言われるものです。)

スクリプト型

画面中央のエリアを見ての通り、文章で記述されるタイプのものです。

実際に文章を打ち込んでいる訳ではなく、「フローチャート型(GUI型)」と同じく、左右にある窓から選んだものが、自動的に文章になって表示されているだけですので、念のため。

「スクリプト型」の場合、多少長いシナリオになった場合でも、見る人がみれば細かいところまで、すぐ理解できるのです。

一方、「WinActor」の場合、長いシナリオになると、パーツを開いたり閉じたり、他の窓を開いたり閉じたり移動させたりと作りづらく、読み取りづらくなります。

つまり、長いシナリオになればなるほど、フローが画面に収まらず、修正したり読み解くのに時間が掛かるのです。(サブルーチンとして別ページに分ける方法もありますが、それでもすぐに縦長表示になり、見づらいのは同じ)

 

■タイマースケジュールが無い

RPAの特徴の1つが、「作業を行う時間を問わない」というものです。

従業員が帰宅している真夜中とか、土日などにも、処理を走らせることが出来るというのは、とても大きなメリットです。

にも拘わらず、「WinActor」には標準でタイマースケジュール機能が無いのです!

これにはちょっと驚きで、Windowsの機能として付いている「タスクスケジューラ」を利用せざるを得ないのです。

サードパーティーから、細かく日程調整できるサービスも提供されていますが、あってしかるべきスケジュール機能が無いというのどういった理由からでしょうか。凄く不思議です。

 

■変数への格納文字数が1024文字

メールの自動送信をRPAで行っていると、テキストなどに予め書いておいた長い文章を、メール本文へペタッと貼り付けることは、よくあります。

しかし、「WinActor」においては、変数への格納文字数に上限があり、1度に1024文字しか扱えないのです。

なので、長い文章になる場合、変数を複数作り、分割して貼っていくという作業が発生するのです。

そのために、いちいち文字数チェックを掛けるのは、結構ストレスになりますね。

 

現時点における「WinActor」への個人的評価>

WinActorを使い込む前までは、
・NTTが作った国産RPA
・有料サポートなどが充実している
・日本シェアNo.1

といったことで高く評価していましたが、ある程度習熟した今だからこそ言わせて頂くと、自分の中では「あまり推奨しないRPAソフト」に位置づけられています。

最初の最初は、その見た目から使い易いように感じていましたが、スキルが上がってくるにつれ、操作方法やパーツの作りにまどろっこしさを感じるのです。

これに年間100万円なら、残念ながらもっと安くて使い勝手の良いRPAソフトは他にもありますよ!という気持ちです。

ノンプログラマー向けにこだわり過ぎているせいか、インターフェースやパーツの設計思想に共感できない個所が多すぎるというのが、その理由です。

ですので、中小企業(中堅企業は除く)への導入を考えた場合、コストパフォーマンスの面からいっても、「ダメではないけど、強くPUSHもしない。」という評価になります。